ブログ

役員報酬と賞与の適正な決め方とは?税務と資金繰りの視点から解説

はじめに:役員報酬・賞与の決定、その根拠は明確ですか?

役員報酬や役員賞与は、経営者自身の労苦に報いる重要な要素であると同時に、会社の経営状況を左右する大きな支出項目です。その金額をどのように決定するかは、多くの経営者にとって悩ましい課題の一つと言えるでしょう。

考慮すべき点は多岐にわたります。税務上の損金算入ルール、会社の資金繰り状況、経営者個人の生活設計、従業員の給与水準との兼ね合いなど、様々な要素が絡み合います。

「昨年と同程度で」「利益が出たから少し増やそう」といった感覚的な判断や、明確な根拠に基づかない決定は、意図せず税務上の不利益を被ったり、会社の資金繰りを圧迫したりする危険性も否定できません。

この記事では、役員報酬・賞与を決定する上で特に重要な「税務」と「資金繰り(現金の流れ)」という2つの視点に焦点を当て、その適正な決め方のポイントを解説します。自社の決定プロセスを見直し、より合理的で戦略的な意思決定を行うための一助となれば幸いです。

税務の視点①:役員報酬を「損金」として認めさせるための必須知識

役員報酬は、原則として会社の経費(損金)として認められますが、税法で定められたルールを遵守しない場合、損金として認められず、結果的に法人税の負担が増加する可能性があります。まず、基本となるルールを確認しましょう。

役員報酬が損金として認められるためには、主に以下のいずれかの支給方法に該当する必要があります。

定期同額給与の原則

これは、役員報酬の最も基本的な支給方法です。

  • 概要: 毎月、決まった支給日に、同額の給与を支給する方法です。
  • 改定時期の制限: 原則として、事業年度開始の日から3ヶ月を経過する日までに改定する必要があります。それ以外の時期に増減額すると、その変動部分は損金として認められない可能性があります。
  • 重要性: この制限は、期末近くになって利益が出た場合に、役員報酬を増額して意図的に法人税を圧縮するような、恣意的な利益調整を防ぐために設けられています。安定した経営のためにも、計画的な報酬設定が求められます。

事前確定届出給与(役員賞与を損金にする方法)

役員に対して賞与(ボーナス)を支給し、それを損金として認めさせたい場合に用いる方法です。

  • 概要: 「いつ」「誰に」「いくら」支給するかを事前に具体的に定め、定められた期限までに税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する方法です。
  • 手続きの厳格性: 届出書の提出期限(原則として、株主総会の決議日から1ヶ月を経過する日、または事業年度開始の日から4ヶ月を経過する日のいずれか早い日)を厳守する必要があります。
  • 支給額の遵守: 届け出た金額と異なる金額を支給した場合(例:業績悪化を理由に減額した場合など)、原則としてその全額が損金不算入となります。非常に厳格な運用が求められるため、導入には慎重な検討が必要です。

業績連動給与

  • 概要: 会社の利益や株価など、客観的な業績指標に連動して報酬額が算定される方法です。
  • 適用要件: 算定方法が客観的であること、有価証券報告書での開示(上場企業等)など、適用要件が複雑です。そのため、非同族会社である中小企業での採用は限定的です。

過大役員報酬のリスク

上記のいずれの方法で支給する場合でも、その金額が「不相当に高額」であると税務署に判断された場合、高額すぎる部分は損金として認められません。

  • 判断基準: 役員の職務内容、会社の収益状況や従業員への給与支給状況、同業種・類似規模の法人の役員報酬水準などを総合的に勘案して判断されます。
  • 対策: 明確な基準はありませんが、議事録などで報酬額の算定根拠を明確にしておくこと、同業他社の水準を意識することなどが考えられます。

税務の視点②:役員への「賞与」支給、損金算入の留意点

従業員への賞与は、通常、支給時に損金として処理できますが、役員への賞与は取り扱いが異なります。

原則は損金不算入

まず、役員に対して支給される賞与は、原則として法人税法上、損金には算入できないという点を理解しておく必要があります。これは、役員が自身の賞与額を決定することで、会社の利益を操作できてしまうことを防ぐためです。

例外としての事前確定届出給与

前述の通り、役員賞与を損金として認めさせるための唯一の例外的な方法が「事前確定届出給与」です。この制度を利用する場合、以下の点に特に注意が必要です。

  • 手続きの厳格性: 提出期限、記載事項、支給時期、支給金額のすべてを届け出通りに実行する必要があります。少しでも異なると、全額が損金不算入となるリスクがあります。
  • 業績変動への対応: 事前に届け出た後、会社の業績が予想外に悪化した場合でも、届け出た金額より減額して支給すると、原則として損金算入が認められません(一定の経営状況の著しい悪化等のやむを得ない事情がある場合を除く)。

使用人兼務役員の場合

工場長や支店長など、従業員としての立場も併せ持つ「使用人兼務役員」に対しては、その従業員としての職務に対する賞与であれば、他の従業員と同様の支給基準に基づいて支給される限り、損金として認められる場合があります。ただし、役員としての職務に対する部分は対象外です。

資金繰り(現金の流れ)の視点:会社の「現金」は足りていますか?

役員報酬や賞与は、損益計算書上では費用として計上されますが、会社にとっては実際に「現金」が出ていく支出です。利益が出ていても、現金の裏付けがなければ支払いはできません。高すぎる報酬設定は、会社の資金繰りを悪化させる大きな要因となり得ます。

資金繰り表作成の重要性

  • 会社の現金の出入りを予測・管理する「資金繰り表」の作成は、健全な経営の基本です。
  • 役員報酬や賞与の支払いは、毎月または特定の月に発生する大きな現金支出です。資金繰り表にこれらの支払予定を組み込み、将来の現金残高が不足しないかを確認することが不可欠です。
  • 「黒字倒産」(利益は出ているのに現金が不足して倒産すること)のリスクを避けるためにも、資金繰りの管理は極めて重要です。

売上入金・経費支払いサイクルとの連動

  • 売上代金の回収(入金)タイミングと、仕入代金や経費の支払いタイミングのズレ(支払いサイト)を考慮する必要があります。
  • 特に、売上回収までの期間が長い業種や、大きな仕入が先行する業種では、手元現金が不足しがちです。役員報酬の支払いによって、運転資金がショートしないよう注意が必要です。

銀行融資への影響

  • 金融機関が融資審査を行う際、会社の財務状況は厳しくチェックされます。
  • 過度な役員報酬の支払いは、会社の利益を圧縮し、自己資本比率を低下させる要因となります。これは、銀行からの評価を下げる可能性があります。
  • 一方で、利益を適切に確保し、健全な財務体質を維持することは、融資を有利に進める上で重要です。役員報酬は、会社の財務体力とのバランスを見て決定する必要があります。

納税資金の確保

  • 役員報酬・賞与以外にも、会社には大きな現金支出があります。特に、法人税、消費税、源泉所得税、社会保険料といった租税公課の支払いは、時期が集中したり、予想外に高額になったりすることもあります。
  • これらの納税資金を常に確保しておく必要があり、役員報酬・賞与の決定にあたっては、納税予測額も考慮に入れる必要があります。

運転資金・投資資金とのバランス

  • 会社を運営していくためには、日々の運転資金が必要です。また、将来の成長のためには、設備投資や人材採用、研究開発などへの投資資金も必要となります。
  • 役員報酬・賞与は、これらの必要な資金を確保した上で、無理のない範囲で設定することが、会社の持続的な成長には不可欠です。

法人・個人のトータル税負担の視点:最適なバランスを探る

役員報酬・賞与の金額は、法人税の額に影響するだけでなく、経営者個人の所得税・住民税、そして社会保険料の負担額にも直接的に関わってきます。したがって、会社(法人)と経営者(個人)の税・社会保険料負担を総合的に考慮し、トータルでの負担が最も軽くなるようなバランス点を見つける視点が重要になります。

税・社会保険料のトレードオフ関係

  • 役員報酬を増やす場合:
    • 法人の損金が増えるため、法人税等の負担は軽減されます。
    • しかし、個人の所得が増えるため、所得税・住民税(所得が多いほど税率が高くなる累進課税)の負担が増加します。
    • また、社会保険料(健康保険・厚生年金)の負担も、報酬額に応じて増加します。
  • 役員報酬を減らす場合:
    • 個人の所得税・住民税・社会保険料の負担は軽減されます。
    • しかし、法人の損金が減るため、法人の利益が増加し、法人税等の負担が増加します。

最適なバランス点の検討

  • このバランス点は、法人税率と個人の所得税・住民税の実効税率、社会保険料率などを比較検討して探ることになります。
  • 一般的に、個人の所得税・住民税率は累進課税で、一定の所得を超えると法人税率よりも高くなるため、ある水準を超えて役員報酬を増やすと、トータルでの負担が増加する傾向があります。
  • 社会保険料の負担も考慮に入れる必要があります。報酬月額に応じて保険料が段階的に上昇し、上限も設けられています。
  • 会社の利益水準、経営者個人の他の所得状況、扶養家族の状況などによって、最適なバランス点は個々に異なります。

役員報酬 vs 配当

  • 会社の利益を個人に移転する方法として、役員報酬以外に「配当」も考えられます。配当は法人の損金にはなりませんが、個人の所得としては、総合課税(配当控除あり)または申告分離課税(上場株式等)となり、社会保険料の対象外です。
  • どちらが有利かは、役員報酬と同様に、法人・個人の状況に応じた詳細なシミュレーションが必要です。

シミュレーションの重要性

このように、最適なバランス点を見つけるためには、様々な要素を考慮した複雑な計算が必要です。そのため、**税理士に依頼して、複数の報酬パターンについて、法人・個人のトータルでの税・社会保険料負担額を具体的に試算(シミュレーション)**してもらうことが非常に有効です。

適正な役員報酬・賞与を決定するための具体的なプロセス(推奨)

感覚や前年踏襲ではなく、客観的な根拠に基づき、計画的に役員報酬・賞与を決定するためのプロセス例をご紹介します。

  • Step 1: 経営計画・利益計画の策定
    • まずは、会社としての中期的なビジョンを描き、それに基づいた具体的な数値目標(売上、利益など)を設定します。これにより、役員報酬の原資となる利益の見通しを立てます。
  • Step 2: 資金繰り計画の策定
    • 利益計画と連動させ、具体的な現金の収入・支出を月次ベースで予測します。役員報酬・賞与の支払いが、他の運転資金や投資資金、納税資金を圧迫しないかを確認します。
  • Step 3: 外部データの参照・比較
    • 可能であれば、同業種・同規模の企業の役員報酬データを調査・比較し、自社の報酬水準の客観的な妥当性を評価します。(税理士は、統計データや過去の事例などを持っている場合があります)
  • Step 4: 税負担シミュレーションの実施
    • 複数の報酬額パターン(例:報酬のみ、報酬+事前確定届出給与、報酬+配当など)を設定し、税理士に依頼して法人・個人のトータル税・社会保険料負担額を試算します。最も負担が少なく、かつ会社の財務状況に見合った水準を探ります。
  • Step 5: 正式な決定手続きと記録
    • 決定した報酬額・支給方法について、株主総会で正式に決議し、その内容を議事録として適切に作成・保管します。これは税務調査への備えとしても重要です。
    • 事前確定届出給与を支給する場合は、定められた期限までに正確な内容で税務署へ届出書を提出します。
  • Step 6: 定期的な見直し
    • 会社の業績は常に変動しますし、税制や社会保険制度も改正されます。少なくとも年に一度、決算後などのタイミングで、役員報酬・賞与の金額や支給方法が現状に適しているかを見直すプロセスを設けることが望ましいでしょう。

税理士の役割とパートナーシップ

役員報酬・賞与の決定は、単に金額を決めるというだけでなく、税務上のルール、会社の資金繰り、法人と個人の税負担バランスなど、多岐にわたる専門知識と複合的な視点が求められる、高度な経営判断です。

税理士に期待される役割

  • 税務ルールの専門家として: 定期同額給与、事前確定届出給与などのルールを正確に解説し、損金不算入リスクを回避するための適切な手続きをサポートします。
  • シミュレーションの実施者として: 法人・個人のトータル税・社会保険料負担を具体的に試算し、最適な報酬水準の検討材料を提供します。
  • 財務アドバイザーとして: 資金繰り計画の策定を支援し、会社の財務状況を踏まえた報酬額設定に関する助言を行います。
  • 情報提供者として: 同業他社の報酬データや、最新の税制改正情報などを提供します。
  • 中長期的プランナーとして: 役員退職金の準備や事業承継なども視野に入れた、長期的な視点での報酬プランニングをサポートします。

パートナーシップの重要性

税理士の関与の仕方や得意分野は様々です。単に過去の数字をまとめて申告書を作成するだけでなく、上記のような役割を積極的に果たし、会社の将来を見据えた提案を行ってくれる専門家との連携は、経営判断において非常に有益です。財務的な視点からのアドバイスや、計画策定の具体的なサポートまで期待できる関係性を築くことが理想的と言えるでしょう。

まとめ:戦略的な役員報酬・賞与決定で、会社と経営者の成長を両立させる

役員報酬・賞与の決定は、その金額設定以上に、決定に至るプロセスと根拠の明確性が重要です。これは、会社の財務戦略・税務戦略の根幹に関わる重要な経営判断と位置づけるべきです。

税務上のルールを遵守することは当然の前提ですが、それに加えて、会社の資金繰り状況、そして法人・個人のトータルでの税・社会保険料負担を十分に考慮した、計画的かつ戦略的なアプローチが不可欠となります。

感覚や慣例に頼るのではなく、信頼できる専門家(税理士)と緊密に連携し、客観的なデータと具体的な試算(シミュレーション)に基づいた意思決定を行うこと。それが、会社と経営者双方の健全な成長を持続させるための鍵となります。

税理士法人エールでは、税務の専門知識はもちろん、多くの企業の財務・資金繰り改善を支援してきた経験に基づき、お客様の状況に合わせた最適な役員報酬・賞与プランニングの策定サポートを提供しております。


お問い合わせ