「役員報酬は毎月定額で支払うもの、賞与は業績が良い時に出すもの…」多くの中小企業で、このように認識されているかもしれません。しかし、役員報酬と賞与は、単に役員への給与を支払う手段というだけでなく、会社の資金繰り、税金対策、そして役員のモチベーションに大きく影響を与える重要な経営戦略の一つです。
「一体、役員報酬と賞与のバランスはどうするのが正解なんだろう?」
この記事では、日々経営に奮闘されている中小企業の経営者の皆様に向けて、役員報酬と賞与それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合わせた最適なバランスを見つけるための考え方と具体的なポイントを徹底解説します。これを読めば、あなたの会社にとって本当に「使える」役員報酬・賞与の設計ができるようになるはずです。
はじめに – 役員報酬と賞与、どちらを重視すべき?
中小企業の経営者にとって、役員報酬と賞与のバランスは常に頭を悩ませる問題です。毎月の固定費となる役員報酬を高く設定すべきか、それとも業績に応じて柔軟に支給できる賞与を重視すべきか。どちらが良いかは、会社の規模、業績、資金繰り、そして経営者の考え方によって大きく異なります。
本記事では、それぞれの特徴を深く理解した上で、あなたの会社にとっての「最適解」を見つけるための道筋を示します。
役員報酬と賞与、それぞれの特徴とメリット・デメリット
まず、役員報酬と賞与がそれぞれどのような性質を持ち、どのようなメリットとデメリットがあるのかを整理してみましょう。
2.1. 役員報酬
特徴:
- 毎月、または一定期間ごとに、あらかじめ決定された一定額が支給される給与です。
- 原則として、事業年度の途中で金額を変更することはできません(税法上の制約があります)。
- 役員の職務内容、責任の度合い、会社の業績などを考慮して決定されます。
メリット:
- 安定した収入: 役員にとって毎月安定した収入が得られるため、生活設計が立てやすくなります。
- 社会保険料の調整: 役員報酬の金額によって、社会保険料の負担額が変動するため、ある程度の調整が可能です。
- 損金算入: 法人税法上の要件を満たせば、支払った役員報酬は会社の経費(損金)として計上できます。
デメリット:
- 業績連動性が低い: 毎月固定額のため、会社の業績が大きく変動しても、すぐに報酬に反映させることは難しいです。
- 過度な高額報酬は税務リスク: 社会通念上不相当に高額な役員報酬は、税務署から否認され、損金として認められない可能性があります。
- 固定費の負担: 業績が悪化した場合でも、毎月一定額の役員報酬を支払い続ける必要があるため、資金繰りの負担となることがあります。
2.2. 賞与
特徴:
- 会社の業績や個人の貢献度に応じて、臨時的に支給される給与です。
- 支給額や支給時期は、会社の判断で比較的柔軟に決定できます。
- 一般的には、年1回または年2回支給されることが多いです。
メリット:
- 業績連動性が高い: 会社の利益が出た時や、役員が特に貢献した時に支給できるため、業績と報酬を連動させやすいです。
- 従業員のモチベーション向上: 役員だけでなく、従業員の賞与も支給することで、会社全体のモチベーション向上に繋がります。
- 損金算入: 法人税法上の要件を満たせば、支払った賞与も会社の経費(損金)として計上できます(事前確定届出給与の制度を利用する必要があります)。
デメリット:
- 収入の不安定さ: 支給額や支給時期が業績によって変動するため、役員にとって収入が不安定になる可能性があります。
- 社会保険料の調整: 賞与が支給された場合、その都度社会保険料が計算されるため、役員報酬のように計画的な調整は難しい場合があります。
- 資金繰りの変動: 賞与を支給する時期には、まとまった資金が必要となるため、資金繰りに影響を与える可能性があります。
中小企業における役員報酬と賞与のバランスを考える上でのポイント
中小企業が役員報酬と賞与のバランスを考える際には、以下のポイントを総合的に考慮する必要があります。
3.1. 会社の業績と将来性
会社の現在の業績が安定しているか、それとも変動が大きいか。また、今後の成長が見込めるのかどうかは、報酬バランスを考える上で最も重要な要素の一つです。
- 安定した利益が出ている場合: 毎月の役員報酬を主体とし、賞与は業績が良い場合に上乗せとして支給する形が考えられます。
- 業績変動が大きい場合: 毎月の役員報酬を比較的低めに抑え、業績に応じて賞与の割合を高めることで、リスクを分散できます。
- 将来的な成長が見込める場合: 将来の利益増加を見越して、役員報酬と賞与の両方をバランス良く設定し、役員のモチベーションを高めることが重要です。
3.2. 役員の役割と貢献度
役員が会社の経営においてどのような役割を担い、どの程度の貢献をしているのかも、報酬バランスを決定する上で考慮すべき点です。
- 経営全般を担う役員: 会社の業績に直接的な影響を与えるため、業績連動型の賞与の割合を高めることが考えられます。
- 特定の部門を担当する役員: 担当部門の業績目標達成度合いに応じて、賞与を支給するなどの工夫が有効です。
- 創業経営者: 会社の成長段階や個人の生活設計などを考慮しながら、バランスを決定する必要があります。
3.3. 資金繰りの状況
中小企業にとって、資金繰りは常に重要な課題です。毎月の固定費となる役員報酬の負担能力と、賞与支給時にまとまった資金を準備できるかどうかを慎重に検討する必要があります。
- 資金繰りに余裕がない場合: 毎月の役員報酬を抑え、賞与の支給は慎重に行うか、または業績が著しく向上した場合に限定するなどの工夫が必要です。
- 資金繰りに比較的余裕がある場合: 役員報酬と賞与をバランス良く設定し、役員のモチベーション維持に繋げることができます。
3.4. 税務上の影響
役員報酬と賞与のバランスは、法人税、所得税、そして社会保険料の負担額に影響を与えます。それぞれの税金の特性を理解し、会社全体として最も有利になるようなバランスを検討する必要があります。
- 法人税: 支払った役員報酬と、要件を満たす賞与は、会社の経費として損金算入できるため、課税所得を減らす効果があります。
- 所得税: 役員個人に支払われた役員報酬と賞与は、所得税の課税対象となります。所得税率は、所得金額に応じて累進的に高くなるため、役員個人の所得状況も考慮する必要があります。
- 社会保険料: 役員報酬と賞与の金額に応じて、会社と役員個人が社会保険料を負担する必要があります。報酬体系によって、社会保険料の総額が変動する場合があります。
具体的なバランスの考え方と事例
中小企業における役員報酬と賞与の具体的なバランスの考え方として、以下の3つのパターンが考えられます。
4.1. 安定重視型:役員報酬を主体とし、賞与は業績が良い場合に少額支給
このパターンは、業績が比較的安定している企業や、役員の生活安定を重視する場合に適しています。毎月の役員報酬をしっかりと確保し、業績が特に良かった場合に、少額の賞与を支給することで、役員のモチベーション維持を図ります。
例: 年間の役員報酬を1200万円(月額100万円)とし、業績目標を達成した場合に、年1回100万円の賞与を支給する。
4.2. 業績連動型:役員報酬を一定額とし、賞与で業績への貢献度を反映
このパターンは、業績変動が大きい企業や、役員の業績への貢献意欲を高めたい場合に有効です。毎月の役員報酬を比較的抑え、会社の利益や個人の目標達成度合いに応じて、賞与の金額を大きく変動させます。
例: 年間の役員報酬を600万円(月額50万円)とし、会社の経常利益の一定割合を賞与として役員に分配する。
4.3. バランス型:役員報酬と賞与を適切に組み合わせ、それぞれのメリットを活かす
このパターンは、安定性と業績連動性の両方を重視したい場合に適しています。毎月の役員報酬をある程度の水準に保ちつつ、業績に応じて賞与も支給することで、役員の安定収入とモチベーション向上を両立させます。
例: 年間の役員報酬を900万円(月額75万円)とし、半期ごとに業績評価を行い、評価に応じて50万円〜150万円の範囲で賞与を支給する。
【事例紹介】
- IT企業(従業員数20名):業績連動型
- 毎月の役員報酬は比較的低めに設定し、プロジェクトごとの達成度や会社の年間利益に応じて、年2回の賞与を支給。個々の貢献度を明確に反映させることで、役員のモチベーションを高く維持。
- 製造業(従業員数50名):安定重視型
- 長年の取引先との関係が安定しており、業績も比較的安定しているため、毎月の役員報酬を主体とする。賞与は、特別な利益が出た場合に、役員と従業員に一律で支給。
- 飲食業(従業員数10名):バランス型
- 季節変動が大きいため、毎月の役員報酬を一定額確保しつつ、繁忙期後の利益状況を見て、年1回の賞与を支給。安定収入と業績に応じた報酬を両立。
税務上の注意点 – バランスを考える上で見逃せないポイント
役員報酬と賞与のバランスを考える上で、税務上の注意点を見落とすことはできません。適切なバランスで設計しないと、税務署から指摘を受け、損金として認められないなどのリスクが生じる可能性があります。
5.1. 過度な役員報酬・賞与は損金不算入のリスク
社会通念上不相当に高額な役員報酬や賞与は、税務署から「不相当に高額」と判断され、損金として認められない可能性があります。
- 適正な金額の判断基準: 明確な基準はありませんが、同業種・同規模の企業の役員報酬水準や、役員の職務内容、会社の収益状況などを総合的に考慮して判断されます。
- 同業他社との比較: 役員報酬を決定する際には、同業他社の役員報酬水準を参考にすることが有効です。
- 明確な根拠: なぜその金額の役員報酬や賞与を支給するのか、明確な根拠(株主総会議事録や役員会議事録など)を残しておくことが重要です。
5.2. 事前確定届出給与の活用
賞与を会社の経費(損金)として計上するためには、「事前確定届出給与」という制度を利用する必要があります。
- 賞与を損金として計上するための手続き: 賞与の支給時期、支給対象者、支給金額などを事前に決定し、所轄の税務署に届け出る必要があります。
- 届出の期限と記載事項: 届出期限は、原則として株主総会等の決議日から一定期間内と定められています。届出書には、支給時期、金額、対象者などを正確に記載する必要があります。
- 届出内容との差異: 実際に支給した賞与の金額や時期が、届け出た内容と異なっている場合、原則として損金として認められません。
5.3. 社会保険料の負担
役員報酬と賞与は、社会保険料の計算にも影響を与えます。
- 役員報酬と社会保険料: 毎月の役員報酬の金額に応じて、健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料が計算されます。
- 賞与と社会保険料: 賞与が支給された場合、その金額に応じて社会保険料が計算され、会社と役員個人がそれぞれ負担します。
- バランスによる社会保険料の最適化: 役員報酬と賞与のバランスを調整することで、社会保険料の総額をある程度コントロールできる場合があります。社会保険労務士などの専門家に相談してみるのも良いでしょう。
まとめ – 自社にとって最適なバランスを見つけ、成長を加速させよう
役員報酬と賞与のバランスは、中小企業経営における重要な意思決定の一つです。会社の業績、役員の役割、資金繰りの状況、そして税務上の影響を総合的に考慮し、自社にとって最適なバランスを見つけることが、企業の持続的な成長と役員のモチベーション向上に繋がります。
「これが正解」という画一的な答えはありません。あなたの会社の状況に合わせて、柔軟に、そして戦略的に役員報酬と賞与のバランスを設計していくことが大切です。
もし、今回の記事を読んでも「うちの会社の場合はどうすれば良いか、まだ迷うな…」と感じられた方は、ぜひ一度、税務の専門家である私たちにご相談ください。あなたの会社の状況を詳しくお伺いし、最適な役員報酬・賞与のバランスをご提案させていただきます。共に、会社の成長を加速させていきましょう。
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